今回のテーマは『野良猫への餌やりと責任』について。
あなたは家の近くや公園で、お腹を空かせて鳴いている猫を見て、「何か食べさせてあげたい」と心を痛めたことはありませんか?その優しさは、決して間違ったことではありませんし、その気持ちこそが動物愛護の第一歩です。
しかし、その優しさだけで行動してしまうと、予期せぬトラブルや、厳しい現実に直面してしまうことがあります。
猫田助さん、はじめまして。いつも記事を拝見しています。
どうしても自分ひとりでは解決できず、相談させてください。
数ヶ月前から、庭に来るガリガリに痩せた野良猫に餌をあげるようになりました。最初は1匹だけだったのですが、いつの間にか仲間を連れてくるようになり、今では3匹が毎日ご飯を待っています。
「お腹いっぱい食べてね。かわいそうに」という一心だったのですが、昨日、お隣の方から「お宅が餌付けしているせいで、うちの庭がフンだらけだ!臭いし迷惑している。どうにかしてくれ」と怒鳴り込まれてしまいました。
ネットで調べると『無責任な餌やりは迷惑行為』、『損害賠償になることもある』と書かれていて、怖くなっています。でも、今までご飯をあげていた子たちを急に見捨てるなんてできません。
猫たちを助けたい気持ちはあるのですが、私はこれからどうすればいいのでしょうか?近所の方に迷惑をかけず、猫たちを守る方法はあるのでしょうか。
ご近所から苦情を言われてしまうと、恐怖や申し訳なさで、「もう餌やりをやめるしかないのか」と追い詰められてしまいますよね。でも、急に餌を絶たれた猫たちがどうなるかを考えると、それもまた辛い選択です。
猫田助では、あなたの「猫を助けたい」という尊い気持ちを、誰からも後ろ指をさされない『正しい活動』へと変えるお手伝いをしたいと考えています。
餌やりは、やり方次第で迷惑行為にもなれば、立派な愛護活動にもなります。
そこで今回は、今の状況を打破するために、餌やりが引き起こす問題の正体と、猫も人も幸せになれる地域猫としての管理方法について、具体的なステップを紹介していきます。
餌やりが引き起こす問題とは?糞尿被害と所有者不明のリスク
猫田助飯を食わせるだけなのに、なんでそんなに怒られるんだい?糞尿が臭いってのはわかるけど、法律とか犯罪とか、そんな物騒な話にもなるのかい?
まず、なぜ近隣の方がそこまで怒っているのか、その原因を正しく理解することから始めたほうが良いでしょう。
多くの場合、餌やりそのものよりも、それに付随して発生する『生活環境の悪化』が問題視されます。
環境省や自治体、大学の調査によると、餌をもらっている猫は何かしらの問題行動をするケースがあります。
その一方で、こうした野良猫による、鳴き声、庭や住居周辺へのふん尿をはじめとする生活環境の悪化、車を傷つけるなどの財産への被害といった問題は、以前から認識されている。
近年は、野良猫への無秩序なえさやりという問題も指摘されている。無秩序なえさやりは、残餌からの悪臭・害虫の発生、カラスやハトの増加、野良猫の他地域からの流入及び繁殖による増加、周辺でのふん尿被害の増加など、様々な生活環境被害を招く。
野良猫問題に対する行政の関与- 自治総研通巻503号 2020年9月号
野良猫に関する苦情の中で最も多いのは糞尿と悪臭です。
餌をもらって元気になった猫は、当然排泄をします。その場所が、もしお隣の綺麗に手入れされた花壇や、子供が遊ぶ庭だったらどうでしょうか。
- 糞尿被害: 他人の敷地での排泄、強烈な臭い。
- 鳴き声: 発情期の大きな鳴き声や、猫同士の喧嘩の声。
- 物損・ゴミ漁り: 車への爪とぎやゴミの散乱。
これらは、餌やりをしている人が「自分の敷地内だけであげているから関係ない」と思っていても、猫は自由に行動するため、近隣全体に被害が及ぶのです。
法律や条例による規制
動物の愛護及び管理に関する法律では、動物への虐待を禁じていますが、同時に第7条で『動物の所有者又は占有者は、(中略)周辺の生活環境が損なわれる事態が生ずるおそれがないように努めなければならない』と定めています。
近年、無責任な餌やりによる被害を防ぐため、条例で規制を設ける自治体が増えています。
例えば、餌を与えたために集まった野良猫の糞尿・悪臭での被害で20万円の支払いが裁判で決定した事例もあります。つまり、公害として認定されたのです。
その時の裁判所がなぜこのような決断したかも書かれています。
【裁判所の判断の要旨】
第4回餌を与えたため集まった野良猫の糞尿の悪臭による被害等を被ったとして付近住民が求めた、給餌した住民らに対する損害賠償請求が一部認容された事例
平成12年秋頃以降、被告Y1、Y2らが野良猫への給餌を続け、その結果、平成13年には、多数の野良猫が原告らの自宅や本件店舗を徘徊し糞尿による悪臭が漂うようになったものであり、原告らが猫嫌いであることを前提とすれば、受忍限度を超えるに至っていたと認めることができる。
この内容から、野良猫のキズの手当をすることや、餌を与えることは自由であるとも書かれていますが、他人に損害を与えてまで自己の行動の自由を主張することは許されないとも書かれています。



餌やりしているだけで所有はしていないと言うかもしれないけど、被害にあった方はこの責任をどこにぶつけて良いか分からず、餌やりしている人を対象にするしかないのかもしれないよ。
『所有者不明』であるがゆえの犯罪リスク
さらに、見落とされがちなのが、野良猫が『誰の持ち物でもない』ことによるリスクです。
飼い猫であれば、何かあれば飼い主が守り、傷つけられれば器物損壊罪や動物愛護法違反で警察も動きやすくなります。しかし、野良猫(所有者不明猫)は管理者がいないため、虐待愛好家などのターゲットになりやすいという悲しい現実があります。
餌付けによって人慣れした猫が、心ない人間に近づき、虐待を受けたり連れ去られたりする事件も後を絶ちません。
「可愛がるだけで責任(所有権)を持たない」という状態は、近隣住民に迷惑をかけるだけでなく、結果として猫自身を危険な目に遭わせる可能性を高めていることも覚えておいてください。



被害を受けている住民がいるという現実と、無防備な猫が犯罪に巻き込まれるリスクを直視しましょう。



可哀想という感情だけでは、社会のルールは守れないのよ!
不幸な命を増やさないために。不妊・去勢手術(TNR)の科学的効果



猫が増えすぎちまうと、困るって聞くぜ。でもよ、体にメスを入れる手術ってのは可哀想な気もするが、本当に必要なのかい?
餌やりを続ける上で、絶対に避けて通れないのが繁殖の問題です。
猫は非常に繁殖力が強い動物です。メス猫は生後半年ほどで子供を産めるようになり、年に2〜3回、一度に4〜6匹の子猫を産みます。
計算上、1匹のメス猫から1年後には20匹以上、2年後には80匹以上に増える可能性があるのです。


相談者さんのケースでも、「最初は1匹だったのが3匹に増えた」とありましたね。
これは、餌があって栄養状態が良くなると、他の猫が集まるだけでなく、繁殖のスピードも加速するためです。
科学的に証明されたTNRの効果
これら不幸な命をこれ以上増やさないための唯一の手段が、『不妊・去勢手術(TNR)』です。
- Trap(トラップ): 捕獲する
- Neuter(ニューター): 不妊去勢手術をする
- Return(リターン): 元の場所に戻す
このTNRの効果は、学術的な研究でも証明されています。
地域猫活動は不妊去勢率を高め、成猫と子猫の個体数および個体数密度を抑制することが明らかになった。さらに地域猫活動地域では猫の健康不良率が低いことから、地域活動の猫の福祉改善効果が示唆された。
地域猫活動が野良猫の個体数制御及び福祉に及ぼす影響 – 帝京科学大学大学院 博士論文
帝京科学大学の三井香奈氏らの研究によると、地域猫活動を実施した地域(TNRや、譲渡などを行い管理した地域)では、実施しなかった地域に比べて以下の効果が確認されました。
- 子猫の数が圧倒的に少ない: 活動実施地域では子猫の数が劇的に抑制されていました。
(ただし、譲渡の可能性がある点も指摘されています) - 猫の健康状態が良い: 活動実施地域では、外見上の健康状態が悪い猫の割合が7%だったのに対し、何もしない地域では28%が健康不良でした。
つまり、手術をすることは「可哀想」どころか、猫たちの健康を守り、過酷な環境で苦しむ猫を減らすための最も有効な手段なのです。
また、手術をすることで、発情期の大きな鳴き声や尿スプレー(強烈な臭いのおしっこ)も減少し、近隣トラブルの要因も軽減されます。



手術は可哀想なんかじゃないぞ。産まれてきても生きていけない命を作るほうが、よっぽど無責任で残酷なことだ。データでも健康になると証明されているからな。



手術をすれば、穏やかに暮らせるようになるわ。病気の子が減るなんて、人間にとっても嬉しいことよね。
地域猫活動の鍵は『三者協働』。行政は敵じゃない!



地域猫ってのはよく聞くけどよ、具体的にどうすりゃいいんだい?
相談者さんが目指すべきゴールは、単なる餌やりから『地域猫活動』へとステップアップすることです。
しかし、これをたった一人でやる必要はありません。むしろ、一人でやってはいけないのです。
三者の役割
環境省が推奨する地域猫活動の成功の鍵は、地域住民、ボランティア、行政の三者が協力する『三者協働』にあります。
地域猫活動は
地域住民 + ボランティア(経験のある団体・個人など) + 行政 が「地域の問題を地域で解決するため」に協働して行うことが大切です。
飼い主のいない猫対策:地域猫活動 – 環境省
| 地域住民 (主体) | 「猫の世話をする人」「町内会で活動を把握する人」「掲示板に報告を出す人」など、地域の中で役割分担をします。主役はあくまで、その地域に住む皆さんです。 |
|---|---|
| ボランティア (サポーター) | 経験豊富な団体や個人です。捕獲器の使い方、猫の病院への搬送、ノウハウの提供など、活動のサポートや助言を行います。 |
| 行政 (支援・把握) | ここが重要です。行政は決して「猫を捕まえて処分するだけの場所」ではありません。 多くの自治体で、不妊去勢手術への助成金や、活動資金の助成、地域住民や関係者の連絡調整、活動の周知(回覧板や掲示板の利用許可)などの支援を行っています。 |
行政が関与することのメリット
野良猫問題に対する行政の関与の研究でも指摘されていますが、行政が関与することで、その活動に公的な正当性(お墨付き)が生まれます。
「あの人が勝手に餌をやっている」という目で見られていたものが、行政がバックアップする『地域の環境改善活動』として認知されることで、近隣トラブルが沈静化しやすくなるのです。
例えば、京都市のまちねこ活動支援事業のように行政と連携することで手術費用の全額負担や、トラブル時の仲裁サポートを受けられるケースもあります。
京都市では、2010年から「京都市まちねこ活動支援事業要綱」にもとづく「まちねこ活動支援事業」を行っている。これは、地域猫活動のうち、
①同一世帯ではない2名以上の活動(管理する猫が10頭以上の場合は3名以上)、
②町内会等の同意、
③活動地域の野良猫の状況把握、
の3要件を満たす活動を「まちねこ活動」として登録し、支援する制度である。
野良猫問題に対する行政の関与
一人で抱え込まず、まずはお住まいの自治体の環境課や動物愛護センターに相談することが、解決への近道です。



行政の人たちも、猫を処分したいわけじゃないんだね〜。



一人でコソコソやるから怪しまれるのよ!堂々と「行政と連携して地域を良くしてます!」って言える体制を作ることが大切なの!
解決策:猫と共生するための7つのステップ



なるほどな、仲間や行政を巻き込むのが大事ってことはわかった。じゃあ、具体的に何から始めればいいんだ?順序立てて教えてくれよ!
それでは、外部空間における人間と猫の共存に関する研究などを参考に、あなたが今すぐ始めるべき具体的なアクションを7つのステップで紹介します。
まずは仲間作りです。一人で活動を続けると、精神的にも金銭的にも限界が来ます。
家族、近所の猫好きの人、あるいは地元のボランティア団体に声をかけ、2〜3人のチームを作りましょう。町内会長さんに相談するのも有効です。
問題を知るには、まず現状把握から。
- 何匹いるのか?(写真などで個体識別)
- 性別は?(オスかメスか)
- 活動範囲は?(どこで寝て、どこでトイレをしているか)
地域猫活動が行われている地域の猫は、行動範囲が集約される傾向にあります。どの範囲を管理すればいいかを見極めましょう。
これが最もハードルが高いですが、最も重要です。
町内会などの集まりで、「不妊手術をしてこれ以上増やさないようにします」「トイレも管理して環境を美化します」と説明し、理解を求めます。この時、行政の担当者に同席してもらうと、話がスムーズに進むことが多いです。
「何をしてもいい」わけではありません。地域に合わせた三者協働ルールを文書化します。
- 餌やりの時間と場所(置き餌は厳禁!)
- 掃除の担当
- 緊急時の連絡先
などを決め、この内容は回覧板を通して地域住民にも周知します。
ルールを守れる人を「登録」します。勝手な餌やりを防ぐため、この場所で、この時間の餌やりはこの人と決めておくことで、責任の所在をはっきりさせます。
ボランティアや行政の支援を受けながら、捕獲(Trap)し、不妊去勢手術(Neuter)を行い、元の場所に戻します(Return)。
手術済みの猫は耳をV字にカット(さくら耳)し、識別できるようにします。
手術して終わりではありません。ここからの管理が迷惑を共生に変えます。
特に重要なのがトイレ管理です。
地域猫活動における糞尿被害減少の取り組みに関する研究によれば、野良猫の行動圏に飼育頭数+1台の共有トイレを設置するのも良いとされます。
- 猫が好む砂や土を入れたトイレを設置する。
- マタタビなど、猫の好む匂いをつけ、トイレを認識させる
- 毎日清掃する。
これだけで、近隣の庭での排泄を大幅に減らすことができます。「他人の家の庭まで掃除するの?」と思うかもしれませんが、その誠意ある行動とトイレ設置こそが、トラブル解決の決定打になります。
ちなみにトイレは安いトイレで構いません。



7つのステップ、大変そうに見えるけど、一つずつやっていけば大丈夫よ〜。



特にトイレの設置は、ご近所さんの怒りを鎮めるのに効果ありそうだね…!
まとめ



ルールを守ることは、猫を守る盾になるんだよ。勇気を出して、まずは行政やボランティアに連絡してみよう。



お隣さんにお話しするのは怖いけど、トイレの掃除をして「管理しています」って姿勢を見せれば、きっとわかってくれる人がいるわ。



手術をして、名前をつけて、地域で見守る。それができれば、その猫はもう「厄介者」じゃなくて「地域の仲間」だ。



掃除もしないで可愛いだけなんて通用しないわよ!ちゃんと管理してこそ、胸を張って私が面倒見てるの!って言えるんだからね!
野良猫の問題は、あなた一人で背負うにはあまりにも重い課題です。しかし、「可哀想」という感情を、具体的な行動と責任に変えることで、必ず道は開けます。
まずは、明日、お住まいの自治体の動物愛護担当窓口に電話を一本かけてみてください。「近所の野良猫の手術について相談したい」「地域猫活動について教えてほしい」と伝えるだけで、状況は動き出します。
猫田助は、そんなあなたの勇気ある一歩を応援しています。
それでは、今回も猫田助完了!
他にも保護猫の捕獲、保護に関しての情報をまとめているので、ぜひご覧ください。




