今回のテーマは『パスツレラ感染症』について。
読者の皆様から届くお便りの中に、少し心配になる内容がありましたので、今回はその話題を取り上げたいと思います。
猫と暮らしていると、引っかかれたり甘噛みされたりすることは日常茶飯事ですよね。
猫田助の皆様、いつも楽しく拝見しています!最近、うちのレオ(1歳・ベンガル)の遊び盛りがすごくて、私の手や腕は生傷が絶えません(笑)。
昨日も猫じゃらしで遊んでいたら、勢い余ってガブッと指を噛まれちゃいました。結構血が出たんですけど、すぐに水で洗ってマキロンしておいたので大丈夫かなと。周りの友達には「痛々しい腕!」って驚かれますけど、猫好きとしてはこの傷も「愛猫との格闘の証(勲章)」みたいで、なんだかんだ許せちゃうんですよね〜。
皆さんの猫ちゃんもやっぱり激しいですか?傷跡が残りにくいケア方法とかあれば、雑談ついでに教えてもらえると嬉しいです!
猫ちゃんとの賑やかな生活、楽しそうですね。その「許せちゃう」という気持ち、愛している証拠だと思います。
しかし、今回のケースのように『血が出るほど噛まれた』にもかかわらず、市販薬だけの処置で済ませてしまうのは非常にリスクが高いということを知っておいてほしいのです。その「猫飼いの勲章」、一歩間違えると命に関わる大変な事態を引き起こす可能性があります。
今回は、猫を室内飼いしているなら誰もが知っておくべきパスツレラ感染症のリスクと、人間に現れる症状について、詳しく解説していきます。
パスツレラ感染症とは?
猫田助おいおい、たかが猫のひっかき傷だろ?
ツバつけときゃ治るようなもんに、感染症なんて大げさな名前つけすぎじゃねぇかい?
今回のケースのように「たかが傷」と考える方は多いですが、油断は禁物です。
パスツレラ感染症(パスツレラ症)は、パスツレラ菌(Pasteurella multocida)という細菌によって引き起こされる人獣共通感染症(ズーノーシス)です。
データによると、猫の口の中(口腔内)にはほぼ100%、爪には約70%の確率で、このパスツレラ菌が常在しています。
Pasteurella multocida は,ヒトを除く動物の口腔内に常在するグラム陰性短桿菌である.ネコの口腔(約100%),爪(70%),イヌの口腔(約 75%)には常在菌として高率に Pasteurella 属菌が存在する1).近年のペットブームによりペット(伴侶動物)から人間へ感染する機会が増加している.
パスツレラ呼吸器感染症の臨床的検討
つまり、特別な病気の猫だけでなく、どんなに健康で可愛い愛猫であっても、この菌を持っているのが普通なのです。
特徴
パスツレラ症の最大の特徴は、感染から発症までのスピードが非常に速いことです。
噛まれたり引っかかれたりしてから、数時間〜24時間以内という短時間で患部が赤く腫れ上がり、激痛を伴う炎症が起こります。
夜噛まれて、朝起きたら手がパンパンに腫れていたというのは、決して珍しい話ではありません。



僕たち猫にとっては口の中に普通にいる菌だから、猫自身は元気なままなんだよ。だから飼い主さんが油断しやすいんだね。
感染経路
主な感染経路は以下の3つです。
- 咬傷(こうしょう)
ガブッと噛まれる。牙が皮膚の奥まで菌を押し込みます。 - 掻傷(そうしょう)
爪で引っかかれる。毛づくろいで爪に菌が付着しています。 - 経口感染・飛沫感染
口移しでエサをやる、キスをする、くしゃみを浴びる。
特に今回のケースのように本気で噛まれた場合は、皮膚の深部まで菌が注入されている可能性が高く、表面を消毒しただけでは内部で菌が増殖してしまいます。



可愛いからってキスをするのは、実はとってもリスクが高い行動なのね。
猫ひっかき病との違い
よく混同される猫ひっかき病とは、原因菌も症状のスピードも全く異なります。



パスツレラ症は「すぐ痛くなる!」って覚えてね〜。



どちらにしても噛まれたり、引っかかれたりしたら病院に行ったほうが良いな。
パスツレラ感染症の症状



へっ、症状って言ったって、どうせちょっと赤くなって痒くなるくらいだろ?そんなビビるこたぁねぇよ。
いえ、パスツレラ症を甘く見てはいけません。
ただの炎症で済めば良いですが、菌が体内に入り込むと、皮膚だけでなく呼吸器や全身に深刻なダメージを与えることがあります。
パスツレラ菌の主な症状は以下の通りです。
- 腫れて赤くなる
- 呼吸器異常
- 合併症
- 糖尿病との合併症
- 骨髄炎 ※死亡のリスクあり
- 敗血症 ※死亡のリスクあり
それでは、一つずつ詳しく解説していきます。
腫れて赤くなる(皮膚症状)
これがパスツレラ症の最も多い症状です。受傷後、30分〜数時間程度で傷口周辺が赤く腫れ上がり、熱を持ちます。
蜂窩織炎(ほうかしきえん)と呼ばれる状態になり、ズキズキとした激痛で眠れなくなることもあります。
蜂窩織炎は、皮膚の深い部分から皮下脂肪組織にかけて、細菌が感染して炎症を起こす病気です。 皮膚には、目に見えない小さな傷がたくさんあります。 この傷から細菌が侵入し、感染が広がってしまうことで発症します。
原因となる細菌は、黄色ブドウ球菌や溶血性レンサ球菌といった、普段から私たちの体の表面にいる常在菌がほとんどです。 これらの細菌は、健康な皮膚では悪さをしません。 しかし、ひとたび皮膚のバリア機能が壊れてしまうと、一気に皮膚の奥深くへと入り込んでしまうのです。
【皮膚科・小児皮膚科】その腫れ、放置しないで!もしかして「蜂窩織炎」かも?皮膚科医が教える、身近な皮膚感染症の怖い話
また、指の関節付近を噛まれた場合、菌が関節内に入り込み関節炎を引き起こすことがあります。こうなると指が曲げられなくなるだけでなく、治療が遅れると関節機能に障害が残る可能性もあります。
ヒトでの感染するとこのようになります。
(人によって苦手意識がある画像なので、興味がある方のみクリックして開いてください)
ヒトでの症状
パスツレラ感染症(Pasteurellosis)
老人や糖尿病患者など、抵抗力の弱いヒトが発症する日和見感染気管支拡張症や結核、悪性腫瘍などの疾患がある場合に発症しやすい。症状は軽い風邪のよおうなものから、重篤な肺炎までさまざま咬傷後、約30分~2日で受傷部に激痛、発赤、腫脹を起こす(糖尿病などの基礎疾患がある場合に重症化)



「マキロンして終わり」だと、奥に入った菌が悪さをしちゃうかもしれないわねぇ…。
肺炎・気管支炎など呼吸器異常
噛まれなくても、濃厚な接触(キスや顔を舐められる等)によって菌を吸い込み、呼吸器系に感染することがあります。
P. multocida は,ヒトを除く動物の口腔内に常在する通性嫌気性菌であり,感染動物との接触によりヒトの体内に侵入する.感染経路には動物の伵傷や掻傷による創傷感染,動物からの非外傷性感染,動物との接触歴が不明な感染の 3 つがあり,本菌による気道感染症の 80%は感染動物との接触による吸入感染と報告されている7).
パスツレラ呼吸器感染症の臨床的検討
気管支炎、肺炎、副鼻腔炎などを引き起こし、咳や痰、息苦しさといった風邪に似た症状が現れます。
通常の風邪薬では治らないため、長引く場合は医師への申告が必要です。



猫と遊んだ後に咳が止まらなくなったら、すぐに病院へ行ってほしいね…。
合併症を起こしやすい
健康な成人であれば抗生物質で治癒することが多いですが、免疫力が低下している方は重症化しやすい傾向があります。
菌が血液に乗って全身に回り、髄膜炎や腹膜炎などの合併症を引き起こすリスクがあります。



疲れが溜まっている時や、体調が悪い時は特に気をつけてほしいわ。
糖尿病患者はより悪影響が出やすい
ここが非常に重要な警告ポイントです。
糖尿病、アルコール性肝障害、がんなどの基礎疾患がある方は、パスツレラ症におけるハイリスク群とされています。
糖尿病の方は細菌への抵抗力が弱く、血流も悪くなりやすいため、菌が一気に増殖してしまいます。最悪の場合、壊死性筋膜炎などを併発し、手足の切断を余儀なくされるケースも報告されています。
持病で最も多かった生活習慣病でもある糖尿病では、糖尿病のコントロールが悪いとき(血糖値が高いとき)は、血液中の白血球が菌を捕まえるスピードや働き、殺菌力が低下することがわかっています。対策として糖尿病とうまくつき合う(コントロールする)ことで、健康を維持し、ペットと楽しい生活が送れるのです。ペットを犯人扱いしないためにもヒト側の原因を作らないようにすることが大切です。他の持病も同様です
「パスツレラ症」の日本の現状認識に違いがあった!? – 人と動物の共通感染症研究会



自分は健康だと思っていても、健康診断で予備軍と言われている奴は要注意だぞ。
骨髄炎
猫の牙は鋭く長いため、噛まれた瞬間に骨に達することがあります。
菌が骨の内部で増殖すると骨髄炎になります。骨の中で炎症が起きると、抗生物質が届きにくく治療が難航します。完治までに数ヶ月かかることも珍しくありません。



骨まで腐ったらシャレにならないのよ! 分かってる?!
敗血症
最も恐ろしいケースが敗血症です。菌が血管内で爆発的に増殖し、多臓器不全を引き起こします。血圧低下や意識障害が起こり、適切な治療が遅れれば死亡する可能性もあります。
日本国内でも、基礎疾患を持つ方がパスツレラ症から敗血症に至り、亡くなられた事例が報告されています。



し、死んじゃうこともあるんだね…。
パスツレラ感染症の診断と治療法



わ、わかったよ。ヤバいのは分かったけどよ。病院に行けって言うけど、市販の塗り薬じゃダメなのかい?
残念ながら、深く噛まれた傷や、すでに腫れ始めている場合は市販薬では対応しきれません。速やかに医療機関を受診しましょう。
診断
受診科目は皮膚科、感染症外科、整形外科が適しています。呼吸器症状がある場合は呼吸器内科です。
重要なのは、医師に必ず「いつ、猫に噛まれた(引っかかれた)」と申告することです。
これがないと、医師も「ただの化膿」と判断してしまい、パスツレラ菌に効きにくい薬を処方してしまう可能性があります。診断には、患部の細菌培養検査や血液検査が用いられます。



お医者さんは名探偵じゃないから、ヒント(猫に噛まれたこと)を伝えないと正解にたどり着けないことがあるんだよ。
治療
パスツレラ菌にはペニシリン系、セフェム系、キノロン系などの抗生物質が有効です。
基本的には内服薬で治療しますが、腫れがひどい場合や関節・骨に関わっている場合は、点滴入院が必要になることもあります。また、傷口を再び切開して膿を出し、洗浄する処置が行われることもあります。



「痛みが引いたから」って勝手に薬をやめないでね。菌がぶり返すことがあるわよ。
パスツレラ感染症の予防と対策



そうは言ってもよぉ、猫と遊びてぇじゃねぇか。どうすりゃいいんだい?
そうですよね。猫は愛玩動物を目的として飼うので、家族の一員です。猫とのスキンシップをゼロにする必要はありませんが、生傷が絶えない状況は改善すべきです。
以下のようなアイテムを参考にして、改善してみましょう!
物理的にガード!手袋の着用
暴れる猫の爪切りや、通院のためにキャリーに入れる際など、確実に怪我をするリスクが高い場面では、素手での作業を避けるべきです。
物理的に牙や爪を通さない装備を整えることが、最も確実な予防法です。
厚手の革手袋は、牙や爪が皮膚まで達するのを防いでくれます。特にペットグローブがおすすめです。
また、DIYなどで使われる刃物に強い手袋も、引っかき傷防止に役立ちます。「新しく買うのは…」と思っている方、ご家庭にこのような手袋があれば、こちらを用意しましょう。



手が傷つかないように、手袋をしてくれたほうが安心よ。
手を獲物にしない!おもちゃの活用
手や腕を噛まれてしまう最大の原因は、手を使って遊ばせていることにあります。猫にとって動く手は格好の獲物です。
必ずおもちゃを使い、飼い主さんの体と猫の距離(ディスタンス)を保つことが鉄則です。
意外と反応してくれるレーザーポインターがオススメ。もしくは紐ですね。
一人で遊ばせるなら電動おもちゃも良いですね。



オイラ、エビのけりぐるみ大好きなんだよ〜。あれなら思いっきりガブガブしても怒られないもんね〜。
菌の温床を作らない!爪切りの徹底
猫の爪はカーブしており、内側に垢や菌が溜まりやすくなっています。尖った爪は皮膚を簡単に切り裂き、奥まで菌を届けてしまいます。
定期的な爪切りはしていますか?守るためにもやってみましょう。
基本的に爪切り時は猫が嫌がり、暴れるので、ネットに入れて爪切りしましょう。
とはいえ、ここまで危ないと言われたら爪切りしたくない人も多いと思います。その場合は動物病院や、動物の爪切り専門で行っている方に頼むと良いでしょう。
基本は500〜1,000円ほどで爪を切ってくれるので、できるかどうかかかりつけの動物病院に相談してみてください。



爪切りは男の身だしなみだぞ。
3. 口内細菌を減らす!デンタルケア
パスツレラ菌は口の中にいます。菌をゼロにすることはできませんが、口腔内環境を良くして菌の増殖を抑えることは可能です。
歯周病は猫にとって最も多い病気です。猫の歯周病予防にもなり一石二鳥です。
猫の歯磨きをする場合は、人の奥歯用の歯ブラシを使いましょう。
こちらも暴れる可能性があるので、ネットがあると安全です。
歯磨きの代替にはなりませんが、歯磨きが苦手な子は、噛むだけで歯垢を落とすおやつや、飲み水に混ぜるタイプのケア用品から始めてみましょう。



お口が臭うのは菌が増えている証拠よ。
菌を洗い流す!手洗い・消毒の常備
どれだけ気をつけていても、遊んでいる最中に歯が当たったり、少し引っかかれたりすることはあります。
その時に「まあいいか」と放置せず、すぐに対処できる環境を作っておくことが大切です。
こちらは普通の殺菌成分の入った薬用ハンドソープで十分です。帰宅時だけでなく、猫と遊んだ後も手洗いを習慣化しましょう。



すぐ洗うが運命の分かれ道だよ。他の病気も予防できるからね。
パスツレラ感染症でよくある質問(FAQ)
最後にパスツレラ感染症でよく見かける質問をまとめてみました。参考にしてください。
どの程度の傷なら病院へ行くべきですか?
出血を伴う噛み傷(牙が刺さった場合)は、見た目が小さくても受診を強くおすすめします。引っかき傷でも、半日経って赤みが広がったり、ズキズキ痛む場合はすぐに受診してください。
飼い猫には何か症状が出ないのですか?
ほとんどの場合、猫は無症状です。パスツレラ菌は猫にとっての常在菌(人間でいう口の中の善玉菌のような存在)だからです。猫が元気だからといって、菌がいないわけではありません。
消毒液は何を使えばいいですか?
もし、噛まれた・深く引っかかれてしまったら、消毒液よりも大量の水道水での洗浄が最優先です。菌を物理的に洗い流すためです。
その後、市販の消毒薬を使っても良いですが、傷が深い場合は表面を閉じると中で菌が繁殖するため、自己判断せず医師の指示を仰いでください。基本的には感染症内科に行き、近くにない場合は総合内科に行きましょう。
まとめ:噛みつき、引っかき傷のリスクを知っておこう!



知識と便利なグッズがあれば最悪のケースを防げるね。



怪我なくニコニコ過ごせるのが一番ね〜。



ボクたちも気をつけるけど、飼い主さんも自分の体を大事にしてほしい…。



「大丈夫」なんて油断してたら痛い目見るわよ! ちゃんと対策しなさいよね!
猫との暮らしは、日々の小さな傷も含めて愛おしいものですが、リスク管理も飼い主さんの大切な役目です。「何かあってから」では遅いのです。正しい知識と適切なアイテムを使って、安全で幸せな猫ライフを送ってくださいね。
それでは、今回も猫田助完了!




















