今回のテーマは『猫が手で水を飲む理由と対策』について。
愛猫が器用に手(前足)を使って水を飲む姿。一見すると可愛らしい仕草ですが、毎回床が水浸しになったり、衛生面が気になったりと、飼い主さんにとっては悩みの種になることもあります。
先日、猫田助の相談にある飼い主さんからこのような内容が届きました。
「はじめまして。愛猫の『ミナ』(2歳・メス)の行動について相談させてください。
これまで普通に器から水を飲んでいたのですが、ここ1ヶ月ほど、必ずと言っていいほど水皿に『ちょいちょい』と右前足を入れ、濡れた手を舐めるという飲み方をするようになりました。(中略)
毎回床がびしょ濡れになってしまい、拭き掃除が大変です。それに、トイレの砂をかいた手で水を触っていると思うと、衛生的に大丈夫なのかも気になります。
そもそも、なぜ急にこんな飲み方をするようになったのでしょうか?水皿が気に入らないのか、それともどこか具合が悪いのか……。やめさせたほうがいいのか、それともこのまま見守るべきなのか、ご意見を伺いたいです。」
ご相談ありがとうございます。床掃除の手間や衛生面、そして「何かのサインかな?」という不安、とてもよく分かります。
実はこの行動、単なる遊びだけではなく、猫の身体的な特徴や本能、環境への不満が隠されている場合があるのです。
この記事では、猫が手を使って水を飲む5つの理由と、今日からできる解決策を、生理光学や動物行動学の視点を交えて詳しく解説していきますね。
猫が水を飲む時に手(前足)を使う5つの理由
猫田助なんでわざわざ手を使うんだい?ベロで飲んだ方が早いだろうに、不思議だねぇ。
まずは、なぜ猫が直接口をつけずに、わざわざ手を使って水を飲むのか、その原因を探っていきましょう。
ヒゲが濡れるのを嫌がっているため
猫のヒゲ(洞毛)は、非常に敏感な高感度センサーです。


空気の流れやわずかな振動すら感知するこのヒゲが、水を飲むたびに器の縁や水面に当たると、猫にとって大きなストレスになることがあります。
これを専門用語で『ヒゲ疲れ(Whisker Fatigue/Stress)』と呼ばれています。
A frequent reason for a healthy cat to refuse to eat from a bowl with plenty of food left behind is that the cat may have whisker fatigue.
As mentioned earlier, at the end of a cat’s whisker are proprioceptors—sensory receptors that responds to position and movement. These proprioceptors make cat whiskers so sensitive that they get fatigued or ‘tired’ by unnecessary contact, such as something repeatedly brushing against them, like the sides of a food bowl.
(日本語訳:健康な猫が、食べ物がたくさん残ったボウルから食べることを拒否するよくある理由は、猫のひげが疲れていることです。前述のように、猫のひげの先端には固有受容器、つまり位置や動きに反応する感覚受容器があります。この固有受容器の働きにより、猫のひげは非常に敏感になり、フードボウルの側面など、何かが繰り返し触れるなど、不必要な接触によって疲労し、「疲れた」と感じてしまいます。)
Why Do Cats Stop Eating When The Bottom Of The Bowl Is Visible, But There’s Still Food? – Science ABC
もし、現在使用している器が小さかったり深すぎたりする場合、猫は不快感を避けるために、ヒゲが当たらない手ですくう飲み方を選択している可能性があります。



ヒゲが器に当たると、ビリビリして嫌な感じがするのよね。
近くの水面が見えづらいため
意外かもしれませんが、猫は近くを見るのが苦手です。


少し古い論文ですが、1963年の研究によると、猫の眼の調節力は約4ジオプトリー程度というデータがあります。
これを焦点距離に換算すると、猫の目は顔から約25cm以内のものにピントを合わせるのが構造的に難しいということになります。
つまり、目の前にある透明な水は、猫にとって「どこに水面があるのか」が非常に分かりにくい状態なのです。そのため、まずは手を入れて水面の位置(水位)を確認し、距離感を測ってから飲もうとしていると考えられます。



実は手元はぼやけてるんだよ。どこから水か確かめないと鼻に水が入っちゃうんだ。
安全確認と鮮度チェックのため
野生時代の猫にとって、水場は敵に襲われやすい危険な場所でもありました。
そのため、視界を塞ぐように器に顔を突っ込むことを本能的に避け、周囲を警戒しながら飲める『手ですくうスタイル』をとる猫がいます。
また、澱んだ水ではなく新鮮な水を好むため、水面を前足で叩いて波紋を起こし、水が動いているか(=新鮮か)を確認する習性を持つ子もいます。





いきなり顔を突っ込むなんて無防備だぞ。周りを見ながら飲むのが戦士の鉄則だ。
水遊びが好き・好奇心
単純に水遊びが好きという性格の場合もあります。


特に、ベンガルやメインクーン、ノルウェージャンフォレストキャットなど、品種によって比較的、水に耐性がある猫がいるようです。
メインクーンは過酷なニューイングランド(アメリカ北東部)の気候の中で進化してきた猫種です。その土地にある川や湖の周辺で暮らしてきたことから、水との関わりはメインクーン 歴史 水と関連が深いといえます。
水をはじくメインクーン 水耐性 被毛は、濡れても比較的乾きやすく、寒さや湿気から身を守る役割を果たします。また、ノルウェージャンフォレストキャットやターキッシュアンゴラといった、水のある環境を好む猫種との共通祖先を持つ可能性も指摘されており、これもメインクーン 猫種 水の特徴や水への親和性の理由として考えられています。
メインクーンと水:その独特な関係性を考察 – Pats Care
相談者さんのように、最初は偶然手が入ってしまったのがきっかけで、「あ、こうすると面白い」「水が動くのが楽しい」と学習し、それが習慣化(遊びの一環)になってしまうケースもあるようですね。



お水がキラキラ動くのが楽しいんだよ〜。ついつい触りたくなっちゃうんだ〜。
器の高さや位置が合っていない
今回の相談者さんには当てはまりませんが、加齢による関節炎や、身体のサイズに対して器の位置が低すぎる場合、首を深く曲げて飲む体勢がつらくなることがあります。
その結果、楽な姿勢のまま水分を摂取できる手で飲む方法を選んでいる可能性があります。特にシニア猫の場合は、この身体的な負担を疑ってみる必要があります。



下を向くと首や背中が痛いのかもしれないね…。
手(前足)で飲むのをやめさせたほうがいい?



猫様っていやぁ手を洗わねぇじゃねぇか。それってバイキンとか大丈夫なのかい?
理由がわかったところで、次に気になるのが「やめさせるべきか」という点ですが…、獣医学的な観点から最も優先すべきは、猫が十分な水分を摂取することです。
猫はもともとあまり水を飲まない動物であり、水分不足は慢性腎臓病(CKD)や下部尿路疾患(FLUTD)などの重大なリスクに直結します。
環境省のガイドラインや獣医学書によると、猫が1日に必要とする水分量の目安は、体重1kgあたり約50ml〜60mlと言われています。
- 体重3kgの猫: 約150ml〜180ml
- 体重4kgの猫: 約200ml〜240ml
- 体重5kgの猫: 約250ml〜300ml
これは食事に含まれる水分も含んだ量です。ドライフード(水分約10%)中心の生活の場合、積極的に水を飲ませる工夫が必要になります。
もし、その猫が手を使わないと水を飲まないのであれば、無理にやめさせて脱水状態になるほうが危険です。
今すぐできる!水飲み環境の改善アイデア



じゃあよ、具体的に飼い主ができる対策はあるのかい?猫様が安全に水を飲めて、どうすれば床が濡れずに済むか、対策を教えておくれよ!
それでは、手で飲む行動を減らし、清潔に水を飲んでもらうための具体的な解決策をご紹介します。
器の形状を変える(ヒゲ対策)
ヒゲ疲れが原因の場合、器を変えるだけで劇的に改善することがあります。
- 広くて浅い皿
ラーメン鉢のような形状や、ヘリが低い皿を選びます。 - 素材
ステンレスの金属臭やプラスチックの匂いを嫌う猫もいます。陶器(セラミック)やガラス製がおすすめです。
ヒゲが当たらず、顔を入れやすい形状のものを用意して反応を見てみましょう。
少々高いのですが、一番オススメは猫壱という猫工学に基づいた器ですね。飲みやすく、負担がないので、猫にとって一番良い水飲み器です。



お顔がすっぽり入る広いお皿なら、ヒゲが当たらなくて飲みやすいわ〜。
水位を目一杯まで上げる(視力対策)
前述の通り、猫は水面の位置が見えにくいため、手で確認しています。
器の縁ギリギリまで水をなみなみと注いでおくことで、猫が近づいた時に鼻先やヒゲが水面に触れやすくなり、「ここに水がある」と認識しやすくなります。
また、器の中に沈むタイプのおもちゃや、色のついた石(誤飲しないサイズ)を入れることで、視覚的に底との距離感を掴みやすくする工夫も有効です。



水がいっぱい入っていると、水面がどこにあるか分かりやすくなるんだよ。
自動給水器(ファウンテン)を導入する
「新鮮な水が好き」「流れる水が好き」という好奇心旺盛な猫には、循環式の自動給水器が最適です。
水が常に動いているため、手で確認しなくても「新鮮だ」と認識してくれます。フィルターで汚れを濾過できるため、手を入れてしまった後の衛生面でもボウルより有利です。
ただし、モーター音を怖がる子もいるため、静音性の高いモデル(ピュアクリスタルやPETKITなど)を選びましょう。
ちなみに猫田助は数が多いから犬用を使っています(笑)。



お水が湧き出てくると、なんだかワクワクして飲みたくなっちゃうね〜。
飲み場所を変える・増やす
壁際や部屋の隅など、猫が背後を気にせず安心して飲める場所に設置します。
また、排泄場所・食事場所と水飲み場を離すのも効果的です。猫は本能的に「食事場所の近くの水は汚れている可能性がある」と感じ避けることがあります。



ご飯の匂いがしない、静かな場所だと落ち着いて飲めるんだよね…。
水の種類を見直す
水道水のカルキ臭を嫌がって手で遊んでしまう場合もあります。
日本の水道水は猫が飲んでも安全ですが、どうしても嫌がる場合は、煮沸して冷ました水や、猫用の軟水ミネラルウォーターを試してみてください。



水飲んで尿路結石なんて冗談じゃないわ!美味しいお水を用意しなさいよね!
頻繁な水交換で対応する
猫の口内にはパスツレラ菌などの常在菌が存在しており、口をつけて飲むだけでも水は時間とともに汚染されます。手で飲む場合は、さらに被毛の汚れやトイレ砂が混入するリスクが高まります。
どちらにしても、以下の対策を徹底しましょう。
- 水の交換頻度を増やす(1日2回以上)。
- 複数の水飲み場を用意する。
- 飲み終わった後の足を拭いてあげる(可能であれば)。
ちなみに猫田助は一日2回水を交換します。大変ですが、病気になるよりはマシなので一生懸命続けております。



衛生面は心配だけど、お水を飲まなくなる方がもっと怖いわ。こまめに換えてあげてね。
猫の水飲みでよくある質問(FAQ)
最後に、猫の水飲みに関するよくある疑問にお答えします。
ぬるま湯を与えても大丈夫ですか?
はい、大丈夫です。むしろ、冬場などは冷たい水よりも人肌程度(36〜38度)のぬるま湯を好んで飲む猫が多いです。香りが立ちやすくなるため、飲水量が落ちている時の対策としても有効です。
お風呂場の水を飲みたがるのはなぜですか?
お風呂場は湿気があり、猫にとって魅力的な場所であることが多いです。また、飼い主さんがリラックスしている場所なので、甘えたい気持ちもあるでしょう。ただし、石鹸やカビ、残り湯の入浴剤などは有害ですので、浴槽の蓋は閉め、お風呂場の水は飲ませないように徹底してください。
高齢猫におすすめの器の高さは?
猫の食道が胃に向かって下がるような姿勢が理想です。地面から5〜10cm程度の高さ(台を使うか、脚付きの器)にすると、首への負担が減り、吐き戻しの軽減にもつながります。
まとめ:猫の手飲みは工夫次第で改善できる



猫ちゃんが飲みやすい方法を見つけてあげることが、一番の健康管理だよ。



飼い主さんがいろいろ試してくれる気持ち、きっと猫ちゃんにも伝わるわ〜。



ボクたち、こだわりが強いけど……怒らないで見守ってくれると嬉しい…。



床が濡れるのは面倒だろうが、俺たちの健康のためだ。頼んだぞ。
猫が手で水を飲む行動には、必ずその子なりの理由があります。
ミナちゃんも、もしかしたら「水面が見えにくい」「器が気に入らない」といった小さな不満を、賢く手を使って解消しているのかもしれません。
まずは器の種類を変えたり、水をたっぷり入れたりすることから始めてみてください。
猫と人間、お互いがストレスなく暮らせるちょうどいい水飲みスタイルがきっと見つかるはずです。
それでは、今回も猫田助完了!













